中国 TOPIC2 一国二制度の今(香港)

中国 TOPIC2 一国二制度の今(香港)

香港の正式名称は、「中華人民共和国香港特別行政区」。中国では、香港とマカオの2都市のみが特別行政区である。社会主義国家の中国において、イギリス統治時代からの資本主義体制と共存させ一国二制度の政治経済体制を敷いている。返還後の香港は、香港特別行政区基本法に基づき、通貨の発行やパスポートの発行など国家に近い高度の自治が認められている。

香港の面積はおよそ東京の半分。人口は約725万人。近年、日本の一人当たりGDPを追い抜き、アジア圏内においてトップクラスの豊かさを享受している。産業構造としては、サービス産業を主体として第三次産業を経済の基盤としている点は、農業や製造業中心の中国本土の経済基盤とは大きく異なる。GDPの約60%以上を個人消費が構成する点も、中国本土とは大きく異なり、香港が脱工業化を実現させた証であろう。

もっとも、返還後の香港は、中国経済を牽引する消費・金融センターとして期待の星であったが、アジア経済危機以降、経済は大きく沈み、中国本土からの経済的な救済措置に依存する立場に転落している。その結果進んだのが、中国本土との融合「中港融合」だ。両地域間の経済関係はより緊密化が進行している。中国本土との経済的依存関係を深め緊密化が進んだ過程は、台湾についても同様のことが言える。そのような中、中国本土との緊密化を見直す民意が示されたのが、先般の台湾の総選挙であるし、2年前の香港における雨傘運動も同様の現象だったと評価できる。つまり「一国二制度」の否定に対する反動である。

目下、香港においては 「中港融合」を背景として、「一国二制度」の否定が進んでいる。2016年1月、中国共産党の権力闘争や習金平国家主席への批判本である禁書を取り扱っていたとされる「銅鑼湾書店」の関係者5人が相次ぎ失踪した。この失踪事件は一国二制度の根幹を揺がす事件として、中国政府に真相究明と関係者の早期解放を求める6000人規模のデモが香港で実施された。香港基本法は、外交や防衛を除いて、幅広い分野で香港に高度の自治を認めている。警察権の行使についても、中国の公安当局は香港で法律を執行する権限は認められていない。香港基本法に明確に反する身柄拘束であり、民主主義の基本的価値である表現の自由を侵害する行為であると、世界中から非難が集まっている。

2年前のオキュパイセントラル(雨傘運動)は、2017年の行政長官選挙を巡る普通選挙法案への反対運動であった。実質的に、北京政府が承認する人間しか行政長官候補として指名されない仕組みに対して、市民の民意に基づく指名も可能にするよう、真の民主的な選挙方法を求める運動であった。オキュパイセントラルにおいて、香港の行政と金融システムの中心地が学生たちによって長期間に亘り占拠され香港の中枢の都市経済機能がストップしたことは記憶に新しい。結果的には、一人の死者も出さずに政府と北京の支持する民主化法案を廃案に追い込むことに雨傘運動は成功した形になったが、デモの中心にいた学生たちと、デモ鎮圧隊の衝突のシーンは、第二の天安門事件発生の悪夢を想起させるものであった。

香港は、英国からの返還以降、中国本土ほど表現の自由、デモや集会の自由への規制や強権発動が少なかった。実際に、民主化勢力のデモにより国家安全条例や愛国教育法が廃案に追い込まれるなど、表現の自由や集会の自由の行使が立法府に対する一定の牽制となって働いたことは間違いない。間接的ではあるが、ある種の民主的な拒否権が機能してきたと言える。しかし、この表現の自由も「銅鑼湾書店」関係者の失踪事件を機に、大きく脅かされるのではないかと懸念が広がっている。

今、香港では、英国の遺産でもある価値観として浸透している真の民主主義に対する高い意識をベースとして、中港融合による経済的及び市民生活上の便益を得られていない若年層を中心として、香港人としてのナショナリズムが高揚している。元々、香港文化や香港アイデンティティの芽生えは1970年代から始まっていた。民主と自由を基本概念とするイギリス的・西洋的な近代国家と、愛国と専制を基盤とする民族的な中華文明国家とは根本的な思想が異なる。北京が行う一国二制度の否定は、民族的ナショナリズムへの統合への動きであり、それに対する反動が雨傘運動で顕在化したと評価できる。

異なる根本思想を基盤とする一国二制度と香港特別行政区基本法の期限は2047年。今後も香港経済が中国本土への依存度を高めれば高める程、一国二制度の否定的局面が現れることが予想される。

最新関連記事 一覧はこちら